2017年10月25日

木原敏江作品と「進化形」BL

摩利と新吾 花とゆめc 4巻.jpgあーらわが殿!.jpg
 1973年『週刊マーガレット』発表の「あーら わが殿!」は明治末が舞台。青春をテーマに、男性同士の同性愛を含む様々な恋愛について描かれた連載で、木原敏江の代表作「摩利と新吾」(77-84年)の原形である。木原には他にも同性愛を扱った作品がたくさんあるが、最初から、好きな気持ちに性別は関係ないという全肯定が根底にある(※1)。

 それを具現化した形で、その作品には同性愛者という性的マイノリティのさびしい気持ちを肯定する味方がたいてい登場する。さらにその肯定者が異性であることも多い。つまりどちらかの性別ばかりの世界ではないのである。「摩利と新吾」のシリーズでもかなり初期から、例えば「忍ぶれど」(80年)に、摩利の新吾への片思いを肯定してくれる凛とした老婦人(※2)が登場するように。

 本作については、自らがレズビアンであり『BL進化論』(太田出版/2015年)の著者でもある溝口彰子が、今よりも同性愛者に対する偏見の激しかった若いころ"「摩利が新吾に向けた同性愛感情と、自分が○○に向けている同性愛感情は、同性愛感情ということでは同じなのだから、世間が何といおうと、それが悪いものであるはずがない」という論理で、レズビアンである自分を受けいれることができた。"(※3)と述べる。

 彼女は"現実の日本社会に存在するホモフォビア(同性愛嫌悪)や異性愛規範(異性愛のみをノーマルであるとして奨励し、それ以外を抑圧する世界観)、そしてミソジニー(女性嫌悪)を克服するための手がかりを与えてくれるBL作品"を「進化形」BLと呼ぶ。90年代には、例外的だったそうしたBLが、00年代に入ってぐんと増えたとのこと。

 木原の同性愛を扱った作品群は、「進化形」BLを前にたどっていくとつながっていく先、といえるのではないだろうか。

※1:木原世界では、性別どころかそもそも生物としての種族も関係ない。
※2:木原敏江の『週刊マーガレット』時代の代表作、新撰組を描いた「天まであがれ!」(75年)に登場する蓉姫の後の姿。この短編は花とゆめコミックス『摩利と新吾』4巻(80年)に収録されている。
※3:「ボーイズラブの変化は社会を動かす?」webサイト『cakes』/2015年9月9日/https://cakes.mu/posts/10708


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
付記 

 木原敏江先生の総特集本が出版されました。とても嬉しいです。
  『総特集 木原敏江〜エレガンスの女王〜』(河出書房新社)

 私も論考を掲載していただいています。よければお読みください。
というか、本自体がすばらしいので、私の文章はさておいても、ぜひ目を通して欲しいです。

 総特集の原稿を書いていたときに一緒に書いたけれども、そちらには載せなかった文章をこの機会にUPします。今年の8月のお盆頃書いていた文書とほぼ同じ内容です。少し補足はしましたが。

 木原先生の特集を購入する方には、「ジュネ」や「やおい」や「BL」を切り分けて考えたい方も多いかもしれないです。けれども私は、木原作品を通して、それらの共通点やちがいについて考えることは大事なことなのではないかと思っています。ひょっとして、木原先生の多くのファンや、木原先生ご自身すら特に望んでいないかもしれないけれども。なので、自分の責任で発表することのできる、このブログにUPしてみることにしました。続きを読む
posted by ヤマダトモコ at 13:30| Comment(0) | TrackBack(0) | メモ